新潟歩き旅Day13

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13日目

8月8日。

燕市の公園で朝を迎える。

上手く進めれば今日中に新潟駅に着く。

朝食のため飯盒で米を炊いていると、犬を散歩しているおばさんがいたので挨拶をした。

広く整備された公園なので、他にも散歩している人はチラホラいる。

私の近くに来た人たちに挨拶をしていると、ちょうど米が炊けた。

食べ終えて飯盒を洗っていると、再びおばさんが来て缶コーヒーをくれた。

約2週間ぶりのカフェインを堪能する。

準備を終え出発しようとすると、ラジオ体操のため子供達が公園にやってきた。

人目につくと不審者扱いされかねないのでそそくさと出ていこうとしたら、随伴していたお母さんに声をかけられる。

「昨日の夕方、道路歩いているの見たよ!」

やはり歩いていると目立つらしい。

「ラジオ体操やっていったら?最終日だから何か貰えると思うよ」

そう言って頂いたのだが、つい数分前に準備運動を終えてしまったのに加え、子供達の手前、最終日だけ現れた汚い奴がご褒美を貰っていくのは抵抗があったので断ってしまった。

今思うと、参加だけしておけばよかったかもしれない。

それでもお母さんは娘と一緒に

「せーの」

「がんばれーー!」

と声援を送ってくれた。

「ありがとう!!」

と手を振りながら出発する。

 

 

この日も快晴であった。

東京ほど熱気を感じるわけではないが、やはり直射日光の下にいると疲れる。

新幹線の高架下に丁度いい日陰を見つけたので、休憩を取った。

休んでいると、目の前にある整備工場の人が出勤してきた。

軽く道を開け、すみません休んでいましたと会釈をする。

すると運転手の男性に「ちょっとコーヒーでも飲んで行きなよ」と言われたのでお邪魔することにした。

男性は整備工場の社長であった。

まだ7時半頃であったが、いつも早めに来てゆっくりニュースを見たいのだと言う。

「ここの道はみんな出勤に使って交通量が多くなるから、少しここで待ったほうがいいよ」

と情報を頂いたので、コーヒーとアイスを頂きながら待たせてもらうことにした。

社長と話していると、提携先と思われる人がやって来たので少し打ち合わせタイムになった。

他に居場所がなかったので、そのまま私も同席してしまう。

打ち合わせが終わると、「ところでこの人は??」という顔をされた。

当然の疑問である。

自己紹介をし、三人で談笑する。

話していると、次第に社員の方たちが出勤してくる。

皆社長に挨拶をした後に「ところでこの人は??」という表情をする。

こちらも当然の疑問なので、自己紹介をしていく。

そうして色々な人と話しているうちに通勤時間帯を過ぎたので、出発することにした。

会社及び提携先からエールを送って頂くのは初めての経験であった。

 

 

11時の時点で残りは約20キロ。

日は沈んでしまうが今日中にはゴールできる計算であった。

新潟駅までは新幹線の線路沿いに進んでいく。

交通量は減ったが、相変わらず快晴過ぎて体力的には厳しい。

おまけに延々と線路と田んぼだけが広がっているため、景色にも飽きてくる。

途中、飲みかけのお茶をくれたおじさんがいたのは有難かったが、その後も延々と線路と田んぼしかなかったので進んでいる感覚がなかった。

 

 

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昼過ぎになって、ようやく田園地帯を抜ける。

一気に工業地帯になり、交通量も多くなった。

やはりアスファルトが多いと気温も空気も不快なものになってくる。

信濃川を渡ってしばらくすると、眼鏡をかけた好青年に話しかけられた。

彼もまた、東京から新潟を自転車で走ったことがあるのだという。

奇しくも初日にあった眼鏡の好青年も新潟まで自転車で走っていた。

眼鏡の好青年は新潟に自転車で行ってしまう自然法則でもあるのだろうか。

私の経験では今のところ、反例はない。

そんな好青年と、彼のマンションまで一緒に歩いた。

彼は私を同志として認めてくれ、応援の証として財布に入っていた小銭をすべてくれた。

感謝の言葉を述べていると、現在地が自分の良く知っている場所であることに気付く。

祖母の家から数本道を挟んだだけの通りだったのだ。

このことを伝えると、彼はすぐに祝福してくれた。

私は改めて感謝を述べ、駅へと向かった。

 

 

駅まではもう一本道、あと3キロほどの地点まで来た。

このままノンストップでゴールしてやろうと意気込んだ瞬間、個人商店のおばさんに声をかけられた。

「飲み物出すからちょっと中においでよ」

そう言われてしまっては、快諾以外の選択肢はない。

自販機の前で、好きなのを選んでいいよと言われたのでグレープフルーツジュースを頂いた。

あまり酸っぱいものを摂取する機会がなかったせいか、本能的に欲してしまった。

店の中に入り、レジ台をテーブル代わりにしながらこれまでの旅の思い出などを話した。

特に、「足とか痛くなったりしないの?」という質問に対しては延々と答えることができる。

このときも足はボロボロで、途中マメが痛すぎて歩けないときもあったほどである。

ノーストップでゴールすると意気込んだものの、実際は疲れもあったのでおばさんの申し出は嬉しかった。

話しに夢中になりすぎて、気が付くと1時間ほど居座ってしまっていた。

ゆっくりと再開の準備をはじめ、お礼を言いつつ新潟駅へと向かった。

 

 

ほぼジャスト20時、ついに新潟駅にゴールした。

所要日数13日、道中の費用は0円、そして沢山の人と話すことができた。

さて、思い出に浸るのはほどほどにして早速コンビニへ向かい、コーラとシュークリームを購入。

ザックからは途中飲むことのなかったブラックニッカを取り出し、駅前でジャグリングのパフォーマンスを見ながら飲みまくった。

飲みながら、隣で見ていたお兄さんと仲良くなる。

「この人たちは、自分のパフォーマンスで人を感動させ笑顔にできて、何だか憧れてしまいます」

「わかります、私なんかただ歩いているだけで、結局は自己満足というか、己との闘いでしかないですから」

「でも十分すごいと思いますよ。東京から歩いてくるなんて」

「そうなんですかね。私の場合、人を笑顔にしたいという目的でやっているわけでもなければ、やっていて生計が成り立つ活動でもないですし。活動自体も別に、黙々と歩いていれば案外着いちゃうので簡単ですよ」

「いやあ、でもそもそも歩こうという気にならないですから」

そんなことを話しながら、パフォーマンスを見ていた。

 

 

午前0時を回り、パフォーマンスは終了。

お兄さんも帰路に着いた。

私は何か食べに行こうと思っていたが、ウイスキー180m瓶を一本飲んでしまったため半分寝かかっていた。

ザックを抱きながら、このままここで寝てしまおうかと思っていたら「あ!!!!」という叫び声が聞こえた。

「ちょっとお前!!!!」と叫び声は近付いてくる。

目を開けた瞬間、「東京から歩いてきたの!!??」と聞かれたので「はい」と答えた。

すると、「お前すげえな!!!!!」と再び叫びながら称賛してくれた。

この人もなんだかすごい。

「じゃあ俺が何か食わせてやる!!何が食いたい!!??」

「肉か魚が食いたいです!!」

「よし、良い焼き肉屋知ってるから行こう!!!!」

という流れになり、おじさんの仲間と一緒に行くことにした。

アラフォーくらいのおじさん、お兄さん、アラフォーくらいのお姉さん×2、私の5人編成で、おじさんとお兄さんは確実に酔っている。

お兄さんは特に叫んだりしていなかったが、なぜか裸足だったので察した。

焼き肉屋に入り、レバーやハラミなどが一皿に盛られたミックス盛りと、ハイボールと白飯を奢ってもらった。

これが最高に美味しい。

疲れているからとか、そういうのを一切抜きにしても美味しいのである。

さらに、店主の人がオリジナルのカレーを白飯にかけてくれた。

普通のカレーではなく、肉々しいコクがあると表現したらよいのだろうか。

とにかく、どれも美味しかった。

食べながら、四人はどういう関係なのかお姉さんに聞いてみた。

すると、「今日初めて会っただけで、全然知らない」と言われてしまった。

やはり、なんだかすごいおじさんであった。

 

 

ハチャメチャに飲んで、飲み会は終了。

おじさんたちと別れる。

祖母の家には翌日向かうと伝えてあるので、今夜は駅で過ごす。

勿論、野宿である。

 

 

【完】

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