新潟歩き旅Day10~12
10日目
8月5日。
無人駅で朝を迎えた。
いつも通り、朝食の白米と干し野菜を食べる。
食事をしていると、地元の方が横を通ったので軽く挨拶をした。
すみません、勝手に寝かせて頂きましたと言うと、何日いても大丈夫よと言ってもらえた。
どこであろうと、普通だったら野宿している人間がいたら警戒心を抱いてしまうはずである。
ところが、このお母さんは一目見るなり優しい態度を取ってくれた。
道中で差し入れをくれる人たちといい、優しい人たちの多さに驚いてしまう。
実際、歩いていて声をかけてくれたり手を振ってくれる人はかなりの割合でいる。
実は、私の思っている「普通だったら」のほうが普通ではないのかもしれない。
この日の目的地は長岡だった。
長岡には親戚の家があるので、遊びに行くついでに一泊する予定である。
今日中に着くと連絡してしまったので、今回は頑張らないといけない。
だが、問題なく着けるだろうという確信があった。
というのも、9日目終盤にようやくザックの調整がわかってきたからである。
調整してからは、歩きやすさが3倍ほど改善された感覚があった。
無駄な小休止が無くなり、一定のペースで進んでいける。
先に結論を書くようだが、調整前は一日20キロほどだったのに対し、調整後は一日40キロほど進むことができた。
それまでザックの調整は甘く見ていたが、歩行距離が倍違うとなると真剣に考えなくてはいけないと悟った。
正午前。
作業をしている農家の人たちと目が合ったので挨拶をした。
「新潟駅まで歩いてるの?」
「はい!」
「いやあ、凄いな!そうだ、ウチでスイカ御馳走するから食べに来なよ!」
「行きます!」
そうして、おじさんの家にお邪魔しに行った。
お邪魔といっても家の中に入るわけではなく、二人で縁側に座ってスイカを食べていた。
そこにお母さんも加わる。
お父さんは学生時代に東京に下宿していたらしく、色々と昔話を聞かせてくれた。
「俺のときは緩かったからさ、俺が出席取ってやる代わりに、友達からメシ代を出してもらったりしていたんだ」
「それ、僕もやりましたし今でもありますよ」
「え!まだあるんだ!!」
等々、新旧大学話で盛り上がる。
スイカ一玉を食べ終えると、今度は昼食まで用意してくれた。
「今度、よかったら農業体験やりにおいでよ」
そんな嬉しい言葉も頂きながら、昼食を食べ終える。
ちょっと俺は昼寝するから、ゆっくりしていっていいよと言われたが、そろそろ失礼することにした。
ここのおじさんの家もそうだが、お世話になった人たちのところへはいつか顔を出しに行きたい。
大量にスイカを食べたおかげで、その後はさらに順調に進むことができた。
とはいえ、流石に長岡は遠く、到着したのは18時過ぎであった。
約十年ぶりに親戚の家に顔を出したら開口一番に
「風呂に入れ」
と言われてしまった。
11日目
8月6日。
親戚に家に滞在中。
当初は1泊だけして出発しようと考えていたが、この日が大雨だったのと「久々なんだしゆっくりしていきな」と言われたのもあり、もう一日いることにした。
家で寝ているだけの、完全な休養日である。
リビングで犬を撫でながらテレビを見る。
ここまでの野宿生活と比べたら、天と地ほどの差がある。
約十年ぶりの訪問だったため初対面であり、最初は「誰だよ!!!!」と言われてしまったが、彼の相棒である愛犬から取り入っていったら次第に心を開いてくれた。
夕方になると雨は上がった。
世話になりっぱなしも悪いし身体も動かしたかったので、代わりに散歩に行くことにした。
しかし愛犬氏、なかなか歩かない。
10歩進んではその辺の雑草の臭いを嗅ぎに行くので、何度も急ブレーキを強いられる。
正直、ザックを背負って歩くのよりも疲れるかもしれない。
膝も足もボロボロだったので、余計にダメージを受ける。
20分ほどしたら帰りたい表情をし始めたので家に戻った。
夕飯を食べ、風呂に入り、布団に入る。
久しぶりの長岡だったが、新たな家族が増えていて楽しい思いができた。
今度はバイクで来てゆっくりと町を巡りたい。
12日目
8月7日。
8時頃に長岡の親戚の家を出発。
2泊したおかげで痛みもすっかり回復…というわけにはいかなかったが、それでも序盤から良いペースで進むことができた。
この日のうちに新潟駅を30キロ圏内に捉え、次の日にはゴールしたい。
午前中のうちに、50キロ圏内に入ることができた。
半日で20キロほど進める計算なので、これなら目標の距離を達成できそうである。
新潟駅までは国道8号に沿って行けばいいので、道に迷う心配もない。
昼過ぎまでは特にペースが乱れることなく、順調に進んでいった。
ところが、17時になったあたりで異変が生じる。
原因はわからないが、痔になってしまったのである。
初期症状のうちは我慢して歩いていたのだが、それも次第に悪化してきた。
もう、とにかく痛くて歩けない。
段差に座り込み、うずくまってしまった。
それでもなんとか歩くのだが、数分進んではうずくまってしまう。
仕方なく野宿予定地を下方修正し、残り3キロ弱の位置に近付けたが、体感的にはその10倍くらいに感じてしまう。
腰や足の痛みならば休憩さえとれば回復するのだが、尻の場合は座り込んでも回復しない点が特に辛い。
今すぐ横になって数時間寝ればマシになるかもしれないが、市街地のため休めそうな場所もない。
旅終盤にして、一気に難易度がハードモードまで上がってしまった。
必死に悶えながら進み、野宿ポイントに到着したのは19時過ぎであった。
いざ現地に着いてみたら野宿できそうな雰囲気ではない、という最悪のパターンも想定したが、なんとかそれは免れた。
むしろ、水道や東屋が揃っている好条件な公園であった。
身体を拭き、夕食を取り、念願のうつ伏せ寝をする。
そのまま眠る…というより気を失うようにして就寝した。